東京地方裁判所 昭和48年(ワ)7693号 判決 1976年7月19日
原告 高木三雄
被告 ダイハツ自動車販売株式会社
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
(一) 被告は、自動車の部品又は付属品につき別紙目録(一)ないし(五)記載の各標章を付したラベル、包装袋及び包装箱を使用し、又は「純正」の文字を右商品に関する広告に使用してはならない。
(二) 被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和四八年一〇月一二日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(三) 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。
二 被告
主文同旨の判決を求める。
第二請求原因
一 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その商標を「本件登録商標」という。)の商標権者である。
出願 昭和二七年四月二四日(商標登録願昭二七―九六六九号)
公告 昭和二七年九月一六日(商標出願公告昭二七―一一八二七号)
登録 昭和二八年二月二三日
原告の権利取得登録 昭和四七年七月二五日
更新登録 昭和四九年四月二七日
登録番号 第四二一四八四号
指定商品 第二〇類(自転車その他本類に属する商品)
登録商標 別添商標公報記載のとおり
二 被告は、自動車及びその部品・付属品の販売を業とする会社であるところ、その販売商品である自動車の部品及び付属品について別紙目録(一)ないし(五)記載の各標章(以下「被告標章」という。なお、個々の標章を指す場合は、番号を付することとする。)を使用し、また自動車関係の雑誌の自動車の部品及び付属品に関する広告にも「純正」の標章を使用している。
三 被告の右被告標章の使用行為は、原告の本件商標権を侵害するものである。
よつて、原告は、被告に対し、被告が自動車の部品又は付属品につき被告標章を付したラベル、包装袋、包装箱を使用し、又は「純正」の文字を右商品に関する広告に使用することの差止めを求める。
四 被告は、右被告標章の使用が本件商標権を侵害するものであることを知り、又は過失によりこれを知らないで、右被告標章の使用をした。
従つて、被告は、原告に対し、右侵害行為により原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。
ところで、原告は、被告の右侵害行為により本件登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の損害を受けたというべきところ、右額は金一、〇〇〇万円を下らないから、同金額が少なくとも被告の右侵害行為により原告が被つた損害である。
よつて、原告は、被告に対し、右損害金の内金一〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四八年一〇月一二日以降支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第三被告の答弁及び主張
一 請求原因一の項は認める。
二 同二の項のうち、被告が自動車及びその部品・付属品の販売を業とする会社であることは認めるが、その余の事実は否認する。
(一) 被告標章(一)及び(二)は、標章ではなく、商品名、品番及び受入検査日を記入したうえ、商品の包装又は商品自体に貼付するラベル用紙である(但し、商品によつては受入検査日を記入しないものもある。)。被告は、検乙第一、第二号証のように、右ラベル用紙に商品名、品番及び受入検査日、又は、商品名及び品番を記入したものを商品の包装又は商品自体に貼付して販売しているものであつて、これらの記入のないラベル用紙を商品に使用することはない。
(二) 被告標章(三)は、商品包装のために使用するビニール袋の一部であつて、標章ではない。右ビニール袋の全体の形状は検乙第三号証のとおりである。被告は、右ビニール袋に商品を入れて包装し、これに前述のとおりの商品名等を記入したラベルを貼付したうえ販売しているものである。
(三) 被告標章(四)は、商品包装のために使用する包装紙箱の一部であつて、標章ではない。右包装紙箱の全体の形状は検乙第四号証のとおりである。被告は、右包装紙箱に商品を入れて包装し、これに前述のとおりの商品名等を記入したラベルを貼付したうえ販売しているものである。
(四) 被告標章(五)は、商品ラバーマツト包装のために使用する包装紙箱の一部であつて、標章ではない。包装紙箱の全体の形状は検乙第五号証のとおりである。被告は、右包装紙箱に右商品を入れて包装し、これに前述のとおりの商品名等を記入したラベルを貼付したうえ販売しているものである。
なお、被告は、「純正」なる標章を原告主張のような広告には使用してはいない。
三 同三及び四の項は争う。
四 前述のとおり、被告標章(一)及び(二)はいずれもラベルの用紙、同(三)ないし(五)はいずれも包装用材料の一部であつて、標章としての特定を欠くものであるから、原告の本訴請求は、既にこの点において失当である。
仮に、被告標章が商品に使用される標章としての性質を有するとしても、その要部は「Daihatsu」、「DAIHATSU」、「ダイハツ」又は、の各部分にあるから、それらの標章が本件登録商標の範囲に属しないことは明らかである。
五 原告の本件商標権に基づく差止請求は、権利濫用であり許されない。
(一) 原告が本件商標権を取得した事情は、次のとおりである。すなわち、原告は、昭和四五年一月一二日に、「純正」の漢字を左から右へと一連に横書して成る標章につき、第一二類「輸送機械器具その部品及び付属品(他の類に属するものを除く)」を指定商品として、商標登録出願をし(出願番号昭和四五年第二八二九号)、これについて昭和四六年一〇月二〇日付で、本登録商標に類似し、本件登録商標に係る指定商品と同一又は類似の商品に使用するものであるから、商標法第四条第一項第一一号に該当するとの理由による拒絶理由通知を受けたものである(乙第一号証)。原告は、右の拒絶理由通知により本件商標権の存在を知るや、昭和四七年一月一五日その商標権者たる鈴木勝雄から、その登録後登録商標とは全く異なる態様において自転車につきわずかに使用されたことがあるのみで、その後長らく使用されておらず、自動車部品及び付属品については全く使用されたことのない本件商標権の譲渡を受け、同年七月二五日その取得の登録をし(乙第二号証)、且つ、前記商標登録出願につき、右鈴木勝雄との商標権譲受交渉中拒絶査定の猶予を求め、右譲受後においては右商標登録出願を本件登録商標との連合商標登録出願に変更して、当初の出願を維持した(乙第一号証参照)。原告は本件商標権を取得するや、自己が代表取締役たる高木金属株式会社の製造販売する自動車部品に本件登録商標を使用し、且つその自動車部品に関する広告を「月刊自動車用品の実務」及び「日刊自動車新聞」等に掲載し、これに商標として<R>の表示を附記した「純正」の標章を付し、且つ「近時当社登録商標に類似する純正等の商標を附した商品が出廻つて居りますが無断使用ですから御注意下さい。」との警告を併記し(乙第三号証及び第四号証)、更に、自動車の完成品の製造業者(その営業部門を分離独立させて別会社とした販売会社を含む。以下「自動車メーカー」という。)であるトヨタ自動車工業株式会社、トヨタ自動車販売株式会社、いすゞ自動車株式会社、三菱自動車工業株式会社、三菱自動車販売株式会社、東洋工業株式会社、日野自動車工業株式会社、ダイハツ工業株式会社、ダイハツ自動車販売株式会社の各社及び社団法人日本自動車工業会に対し、「純正」の表示の使用を禁止する趣旨の警告書を発し(乙第五、第六号証の各一、二、第七号証、第八号証の一、二、第九号証ないし第一一号証)、更にまた被告に対し「純正」を含む標章の使用の差止を求めるとして本訴提起に及んだものである。
原告の前記商標登録出願、これに続く本件商標権の譲受け、自己が代表取締役たる高木金属株式会社の製造販売する自動車部品についての本件登録商標の使用、各自動車メーカーに対する商標使用禁止の警告並びに本件訴提起の各行為は、自動車メーカーが「純正」ないし「純正」を含む標章の上に長年にわたつて築きあげてきた業務上の信用を自己の営業のために借用せんとし、かえつて自動車メーカーが使用することを禁圧し、もつて自動車部品及び付属品の取引業界を混乱に陥れようとの奸悪なる意図をもつて、計画的にされたものである。
けだし、原告が昭和四五年一月一二日に前述の商標登録出願をした当時においてはもとよりのこと、古く大正年代から、既に、「純正」ないし「純正」を含む「純正部品」、「純正部分品」等の標章は、自動車メーカーが責任をもつてその品質を保証している自動車の部品及び付属品を指称する普通名称として使用されてきており、原告は、右出願に先立つ昭和四〇年以来自動車部品の製造・販売を業とする高木金属株式会社の代表取締役としてその業務に携つてきたというのであるから、「純正」ないし「純正」を含む標章が右のとおり普通名称として使用されてきたものであることを知悉していたことは疑いの余地がないからである。
(二) しかして、自動車部品及び付属品について使用される「純正」ないし「純正」を含む標章が、右の意味で普通名称として使用されてきた経緯は、次のとおりである。
1 「純正」ないし「純正」を含む標章の使用は、古く大正年代に遡るものであり、「日本フオード自動車株式会社」が、大正一五年三月一日の報知新聞に「純正フオード部分品」なる態様で広告を掲載している。右広告によれば同広告にいう「純正フオード部分品」なる語は、フオード車の部品であつて「日本フオード自動車株式会社」が責任をもつて販売するものを指し、それ以外のものは、これを「模造品」として区別していることが明らかである(乙第一二号証)。
しかして、右の「純正フオード部分品」なる語は、アメリカにおいてフオード社が使用する英語「Genuine Ford Parts」の訳語であり、アメリカにおける右「Genuine Ford Parts」なる語は、一九一九年(大正八年)五月一日付の「フオードサーヴイス公報」(Ford Service Bulletin)によると「偽造品」(bogus parts, spunious parts)ないしは「模造品」(imitation parts)と区別して使用されていることがわかる(乙第三三七号証)。
また、最近のフオードモーター会社の「ウオロンテイ及びポリシイマニアル」(オーバーシーデイストリビユーシヨンオパレーシヨンの認定デイーラー用)の原文においても、「Genuine Ford Motor Company Parts」、「non-genuine parts」なる語が使用されており、同マニアルの日本語版では、前者が「フオードの純正部品」、後者が「非純正部品」ないしは「非純正品」と翻訳されている(乙第三三八号証)。
そして、この「Genuine Ford Parts」または「Genuine Ford Motor Company Parts」なる語の意味については、フオードモーター会社(Ford Motor Company)の作製にかかるポスターによれば、フオードモーター会社によつて設計された補修部品ないしは新車部品の明細書に従つて製造されたフオードモーター会社設計の交換部品であることが明らかである(乙第三三九号証及び乙第三四〇号証)。
2 また、昭和年代にはいつても神戸市の奥村商店が、昭和一一年八月一日付交通毎日新聞社発行の「一九三六年紙上モーター展」に「ゼネラルモータース株式会社純正部分品卸売特約店」及び「デルコレミー純正パーツ」なる態様で、「純正部分品」及び「純正パーツ」なる標章を附した広告を掲載している(乙第一三号証)。最近のゼネラルモータース会社の自動車部品の包装をみても、「Genuine General Motors Parts」なる表示がなされており、(検乙第一四号証)、右の「ゼネラルモータース株式会社純正部分品」の語が、右の英語の訳語から出ていることが知られる。
更に、明治四二年二月の創立にかかる東京市神田区多町二丁目一番地所在山田輪盛館が遅くとも昭和一三年までに顧客に頒布した営業案内の小冊子には、外国自動車メーカーの製造する自動車の補修品につき、「純正及国産品」なる「純正品」と「国産品」とを対比した表示がなされているが(乙第一四号証)、これによれば、「純正品」の語はそのメーカーより輪入した部分品の意に、また「国産品」の語は国内で製造された外国車の部分品の意に用いられていることが明らかである。
3 わが国の自動車メーカーにおいても、昭和一〇年代から、現在に至るまで、自動車メーカーが需要家に対し、責任をもつて品質を保証する自動車部品及び付属品を提供することにより、製造販売した自動車を良好な状態に維持し、もつてその走行の安全と快適さを確保することを目的として、自己の責任において製造販売する自動車部品及び付属品とそれ以外の自動車部品及び付属品とを区別するために、「純正」ないし「純正」を含む標章を使用してきたものである。右自動車メーカー中には、もとよりダイハツ工業株式会社が含まれている。右標章使用の態様は、「純正」、「純正品」、「純正部品」、「純正部分品」、「ゼニユイン・パーツ」、「純正パーツ」、「純正用品」のそれぞれを単独に、あるいはそれらに社名、販売店名、車種名、車名若しくは部品名等を併記してなるものである。その使用の時期、手段及び態様は、以下の説明及び摘示の各乙号証に掲記のとおりである。
(1) 前記山田輪盛館が遅くとも昭和一三年までに顧客に頒布した営業案内の小冊子における広告。すなわち、国内自動車メーカーの製造に係る自動車の部品につき、「日野式デフレンシヤル純正部分品」及び「目黒ギヤーボツクス純正部分品」なる態様で「純正部分品」なる標章が使用されている(乙第一四号証参照)。
(2) 昭和一四年以降の、流線型社発行(昭和二七年一月一日以降自動車週報社発行)の雑誌「流線型」掲載の広告及び記事(乙第一五号証から第五四号証まで)。
右のうち、昭和二四年一〇月一日発行のものの記事によれば、自動車部品につき、「純正品」の語は、「模造品」の語と区別して、次のような意味で使われていることが明らかである。「ゼニユイン・パーツと云うのは、カーメーカーが自分の自動車に使用して一〇〇%信頼出来得る様に厳格な検査を経た合格品に対してのみ用いられる名称であつて、ただカーメーカーから註文があつたとか、或は何時も納入しているから等という理由ではゼニユイン・パーツとはならないと云う事である。」(乙第四〇号証三頁第三欄参照。)。
(3) 「自動車新聞」(株式会社自動車新聞社発行・週刊紙)に掲載の広告及び記事。右自動車新聞は昭和二二年二月三日に創刊されたものであるところ、同年同月一七日発行の第三号の四頁に「ニツサン・ダツトサン純正部品」、同号五頁に「ニツサン・トヨタ・いすず・ダツトサン・フオード ピストンとスリーブ純正規格」なる態様で「純正」の語を含む標章が付された広告が掲載され、以来現在に至るまで種々の態様で、「純正」ないし「純正」を含む標章を付した自動車部品ないし付属品に関する広告が極めて多数掲載されている。また記事の中にも、同年七月九日発行の第二三号の三頁に「純正部品」なる語が使用されているが、以来現在に至るまで「純正」ないし「純正」を含む「純正部品」等の語が、自動車部品ないし付属品に関してしばしば使用されている(乙第五五号証)。ちなみに、右自動車新聞が創刊された年度(昭和二二年度)分の主だつた広告と記事だけでも多数にのぼつている(乙第五六号証から第六九号証まで)。
(4) 「自動車技術」(自動車技術会発行)に掲載の広告(乙第七〇号証から第七二号証まで)。
(5) 「自動車部品展出品目録」に掲載の広告(乙第七三号証から第七六号証まで)。
(6) 昭和二六年九月三〇日発行「優良自動車重整備事業者工場大鑑」(東京陸運局整備部監修、自動車新聞社刊)に掲載の広告(乙第七七号証)。
(7) 昭和二七年六月八日発行「日本自動車部品組合連合会会員名簿(昭和二七年版)」に掲載の広告(乙第七八号証)。
(8) 昭和二六年三月一日発行(第五巻第一三号)の「モーターフアン」誌及び昭和二七年一月一日発行(第六巻第一号)から昭和四七年一二月一日発行(第二六巻第一七号)までの「モーターフアン」誌に、各年一月号のとおりの態様で各年を通じて掲載された広告(乙第七九号証から第一〇〇号証まで。なお、第一〇一号証参照)。
(9) 「全日本自動車ガイドブツク」(各年全日本自動車シヨウ記念出版)(乙第一〇二号証及び第一〇三号証)。
(10) 「ダイハツパーツリスト」(ダイハツ工業株式会社)(乙第一〇四号証から第一一一号証まで)。
(11) 昭和三三年一月一〇日発行「ダイハツ・ハンドブツク」(ダイハツ工業株式会社)(乙第一一二号証)。
(12) 昭和三四年七月一五日発行「ダイハツミゼツト整備解説書」(ダイハツ工業株式会社)(乙第一一三号証)。
(13) 「純正部品の製造」(トヨタ自動車販売株式会社発行)(乙第一一四号証の一及び二)。
(14) 昭和三三年版「補給部品の市場」(トヨタ自動車販売株式会社発行)。同書の二四頁には、「自動車メーカーはそれぞれ自己の製造した自動車の補給部品として純正部品を製造販売しています。純正部品である以上、トヨタ純正部品も日産純正部品もその他の自動車メーカーの純正部品もすべて主要な点では一致しています」としたうえで、トヨタ純正部品につき「純正部品とは、トヨタ自動車工業株式会社(以下自工といゝます。)の設計による図面もしくは承認図面に基いて製作され、自工又は自工の委任した検査に合格したもので、トヨタ自動車販売株式会社(以下自販といゝます。)を通じて出荷されるものを云う。」との記述がされている。(乙第一一五証)。
(15) 「自動車工学」(株式会社鉄道日本社発行)(乙第一一六号証から第二〇七号証まで)。
(16) 朝日新聞掲載の広告(乙第二〇八号証から第二二〇号証まで)。
(17) 毎日新聞掲載の広告(乙第二二一号証から第二二四号証まで)。
(18) 昭和四三年一一月一日発行「実用百科マイカー」(実業之日本社発行)の二七一頁に掲載の記事(乙第三四一号証)。
(19) 昭和四四年一一月一〇日初版発行「一九七〇年版フアミリーカーI総合百科八〇〇cc~一、二〇〇cc」(株式会社学習研究社発行)の三二二頁に掲載の記事(乙第三四二号証)。
(20) 昭和四四年一一月一〇日初版発行「一九七〇年版フアミリーカーII総合百科一、三〇〇cc~一、九〇〇cc」(株式会社学習研究社発行)の三八二頁に掲載の記事(乙第三四三号証)。
(21) 「自動車ジヤーナル」(自動車産業研究所発行)に掲載の広告(乙第三四四号証から乙第三四六号証まで)。
(22) 「国産自動車変遷史」(株式会社自動車市場研究社発行)に掲載の広告(乙第三四七号証から乙第三五〇号証まで)。
(23) 「七〇年版全国自動車部品用品工具市場名簿」(自動車新聞社発行)の記事(乙第二二五号証)。
(24) 昭和四五年一〇月一〇日発行「マイカー実用百科七一」(実業之日本社発行)の一七五頁に掲載の記事(乙第三五一号証)。
(25) 「七一年全国自動車サービス工場大鑑」(自動車新聞社発行)に掲載の広告(乙第二二六号証)。
(26) 週刊朝日(乙第二二七号証から第二三二号証まで)。
(27) サンデー毎日(乙第二三三号証から第二三六号証まで)。
(28) 週刊サンケイ(乙第二三七号証から第二四一号証まで)。
(29) 週刊読売(乙第二四二号証から第二四四号証まで)。
(30) 週刊新潮(乙第二四五号証から第二五〇号証まで)。
(31) 週刊文春(乙第二五一号証から第二五三号証まで)。
(32) 週刊現代(乙第二五四号証から第二五九号証まで)。
(33) 週刊ポスト(乙第二六〇号証から第二六二号証まで)。
(34) 平凡パンチ(乙第二六三号証から第二六六号証まで)。
(35) プレイボーイ(乙第二六七号証から第二七〇号証まで)。
4 昭和三八年一〇月に発足した「全国純正部品懇話会連合会」は、自動車メーカー系列のカーデイーラー一二社によつて、各社との横の連絡をとりながら「純正部品」を広く普及するという共同目的のもとに、昭和三〇年一〇月に創設された「部品懇話会」をその後改称した「純正部品懇話会」の全国的組織である。同連合会の目的は、会員の増加によつて各地区(各都道府県)ごとに組織されるようになつた上記「純正部品懇話会」の中央における連絡機関として、わが国「純正部品」の販売ルートの団結と協調、販売店部品部門の親睦協調を軸に主として「純正部品」の広告宣伝の共同活動を通じ、部品流通業界及びユーザーに貢献することにある。また、同会々員総数は、昭和四八年四月現在でカーデイーラー六八五社を数え、これまでに上記の目的を達成するために数多くの「純正部品」の広告宣伝活動を行つてきている(乙第二七一号証ないし第二七三号証。なお、乙第二七四号証参照)。昭和三三年一月一〇日に創刊された月刊誌「純正ニユース」は、現在では、主として東京地区の「純正部品懇話会」が監修しているものであるが、同連合会の共同責任のもとに、そのPR用機関紙として刊行されているものである。同連合会は昭和三八年一〇月に発足して以来、同誌における記事・広告等により「純正部品」の普及に努めてきたのであるが、同誌は、前述のように同連合会の発足以前に刊行されているので、その発刊の経過を述べれば次のとおりである。すなわち、前述のように昭和三〇年一〇月に創設された「純正部品懇話会」が「純正部品」の普及という目的を達成するための一手段として、昭和三二年一〇月の総会で機関紙を発行することを決定し、それを「純正ニユース」と名付け、翌年一月一〇日に創刊号が出されたのである。このようにして創刊された「純正部品懇話会」の機関紙「純正ニユース」は、創刊号から第九号までは、新聞形式タブロイド版で、発行所は「純正部品懇話会」とされ、第一〇号からはA四判週刊誌形式に変更された。その後発行業務処理等の都合から、同紙の発行所は「純正ニユース」とされ、編集は「純正部品懇話会」とされた。更に、編集企画等に当たつてきた各デイーラーの社員の業務上の都合からそれまで発行業務について間接的に援助をしてきた右純正部品懇話会連合会事務局長の秋吉大三に同紙の編集企画を全面的に委任することとし、純正部品懇話会がこれを監修するということになり、現在に至つている。同紙の内容は、その発刊の目的から、いうまでもなく「純正部品」の宣伝用の記事及び広告が主たるものである。
なお、同紙の発行部数については、当初一、八〇〇部であつたが、逐次増刊を重ね現在では一六、〇〇〇部にもなつている(乙第二七二号証ないし乙第二七四号証参照)。「純正部品懇話会連合会」は、その他にも、昭和四〇年から本格的な「純正部品」普及のための広告・宣伝活動を行つている(検乙第六号証から第一三号証まで、乙第二七一号証一二頁参照)。
右に述べた「純正部品懇話会」ないし「全国純正部品懇話会連合会」の設立、機関紙「純正ニユース」の発刊及び同連合会の昭和四〇年以来の「純正部品」に関する広範な宣伝活動により、「純正」ないし「純正」を含む標章は、自動車メーカーが責任をもつてその品質を保証している自動車の部品及び付属品を指称するものであることが、わが国内において、ますます周知徹底されるにいたつた。
5 原告が前述のように昭和四五年一月一二日、漢字「純正」から成る商標についてした登録出願を、本件商標権取得後、本件登録商標との連合商標登録出願に変更し、更に昭和四七年九月一八日、本件商標の漢字「純正」の部分とローマ字「JYUNSEY」の部分とを各独立させて、それらをも本件登録商標の連合商標として各登録出願をしたところ、右三件の各連合商標登録出願に対し、特許庁審査官は、次のような理由をもつて拒絶理由通知をしている(乙第二七五号証の一ないし三)。これによつても、「純正」の語の普通名称化の事実は明白である。『本願商標は、指定商品との関係から、部品においては「完成品メーカーまたはその関連会社が直接製造し品質を保証している部品」であることを表わし、完成品においては、「純正部品によつて構成されていること」の意を直観させる「純正」の文字を表示してなるにすぎないから、このようなものを本願指定商品に使用しても、需要者が何人の業務に係る商品であるかを認識することができないものと認める。』
なお、右の拒絶理由通知にいう「完成品メーカーまたはその関連会社が直接製造し」とは、完成品メーカーが直接製造し又は完成品メーカーの指定を受けた部品メーカーが製造しとの意味であり、また「品質を保証している」とは、完成品メーカーがその品質を保証しているとの意味であること、右拒絶理由通知書の記載の趣旨からして明白である。
6 昭和四六年六月二〇日発行の「日本自動車部品工業」(株式会社オート・トレード・ジヤーナル発行)所載の「ポスト自由化と部品政策」なる論稿において、通商産業省重工業局自動車課の川上薫氏は、自動車メーカー又は自動車販売会社から、自動車デイーラーを通じて補修用として売られているいわゆる「純正部品」は、自動車メーカーの大きな資本力により、その流通経路はきわめて合理化、近代化されているのに反し、それ以外の卸商、小売商を通じて販売される補修部品は資本力が弱く、数多くの部品メーカー、卸商、小売商が乱立しているため、研究、開発、生産、在庫管理のすべての面にわたつて技術は著しく立ち遅れており、これが不良部品発生の大きな要因となつているとして、いわゆる「純正部品」とそれ以外の補修用部品との間に品質の面で大きい差異が存することを指摘している(乙第二七六号証の一。二二頁)。
また、同書掲載の「流通近代化の方策と問題点」と題する特別座談会記事において、前記川上薫氏は、部品メーカーが製造する補修部品には、自動車メーカー向け補修部品(純正部品)とその他の部品卸商向け補修部品(優良部品・市販部品)とがあることを前提としたうえで(乙第二七六号証の二。一一七頁)、「これからは安全、公害に関連して部品、用品の品質の品質保証が、よりきびしく要求されるようになると思いますが、具体的にどう考えていますか。」との司会者の質問に対し、「純正部品はカーメーカーの責任によつて市場に出され、それ故逆の見方をするとユーザーが安心して使えるわけですね。」と述べて(乙第二七六号証の二。一二七頁)、「純正部品」に対する明確な評価を下している。
自動車業界の監督官庁である通商産業省の担当官によるこのような論稿及び発言に照らすとき、「純正部品」の語は、業界におけるその長年にわたる慣用により、自動車メーカーが責任をもつてその品質を保証している自動車部品、用品を意味し、「優良部品」及び「市販部品」とそれとを明確に区別するために用いられる普通名称として、その意義を不動にするに至つていることが明白である。
7 わが国において、「純正部品」ないし「純正部分品」の語が、最初「genuine parts」の訳語として使われはじめ、次第に普及して普通名詞となつたことは、以上に述べたところから明らかであるが、外国においても、これに相当する英語の「genuine part」又は「original part」、ドイツ語の「Original-Ersatzteil」、フランス語の「pièce de rechange d'origine」の語が自動車工学上の技術用語として一般に使用されている事実が認められ(乙第三五二号証)、「純正部品」の語はすでに世界共通の普通名詞と化しているのである。
なお、最近のイギリス、アメリカ及びドイツにおける右各語の実際の使用態様の一例を示せば、検乙第一五号証から検乙第一七号証のとおりであり、わが国における「純正」ないし「純正」を含む標章の使用態様と異なるところはない。
(三) 原告が代表取締役としてその業務を執行している高木金属株式会社は、その製造に係る自動車部品(主としてホイールキヤツプ)を、自動車メーカーにその純正部品として納入せず、直接市販しているものである(乙第二二五号証三八四―三八五頁「(株)高木金属工業所」の欄と他の会社の欄と対照)。それ故、右会社は、その製造販売に係る自動車部品につき「純正」ないし「純正」を含む標章を使用することができないものである。
しかるに、原告は、「純正」の漢字を横書した商標の登録出願をし、その登録を得て商標権を取得することにより、純正部品でない自己の商品に「純正」の商標を付けることができるようにしようとし、また、それにより古く大正年代から自動車メーカーが使用してきた「純正」ないし「純正」を含む標章の使用を禁圧しようとして、自己が代表取締役たる前記高木金属株式会社に不当な利益を得させ、自動車業界を混乱に陥れようと意図したものである。
原告は、右商標登録出願が訴外鈴木勝雄の昭和二八年登録にかかる登録商標に類似することを理由とする拒絶理由通知に接するや、前記不正な商標登録出願の意図を継続して、右鈴木勝雄からその商標権の譲渡を受け、自らその商標権者となることにより、前記商標登録出願の意図を実現したものである。
なお、右鈴木勝雄の商標登録出願日である昭和二七年四月二四日当時においても、自動車部品及び附属品につき「純正」ないし「純正」を含む標章が前述のような意味を有する普通名称として使用されていたことは、前記のとおりであるから、鈴木勝雄自身本件商標権に基づいて自動車メーカーに対し「純正」ないし「純正」を含む標章の使用を差止めるべき権利を有していなかつたものである。
すなわち、鈴木勝雄は、昭和二七年四月頃、自転車の販売のために福島へ出張中、駅前の看板に「トヨタ純正部品」の広告があるのをみて、本件商標の登録出願を思いたつたということであり、また本件商標の出願代理人たる弁理士藤江穂においても、「純正」が普通名詞であるということを認識しつつ登録出願したということであるから、本件登録商標は、本来登録されるべきものではなかつたのである。のみならず、鈴木勝雄自身、本件登録商標の登録出願をした昭和二七年四月二四日当時において既に、自動車部品及び付属品について、「純正」ないし「純正」を含む標章が広く使用されていたことを熟知していたというのであるから、鈴木勝雄が本件商標権に基づいて自動車メーカーに対し「純正」ないし「純正」を含む標章の使用を差止めるべき正当な権利を有していなかつたことは明白である(乙第三五三号証)。
(四) 右に述べたとおり、原告が不正の意図をもつて商標登録出願をしたことは、原告が自動車に関する品質や普通名称及び著名商標類似の商標等につき極めて多数の登録出願をしており、不正な商標登録出願の常習者であることによつても明らかである。なお右商標登録出願に対しては、すでに拒絶理由通知又は拒絶査定のなされているものも少なくない。
1 自動車に関する品質、普通名称等を商標として登録出願したもの(乙第二七七号証から第二九一号証まで)
2 著名商標類似の商標を登録出願したもの(乙第二九二号証から第三二〇号証まで)
3 自動車に関する著名商標又は自動車に関する普通名称を第二六類(印刷物等)の商標として登録出願したもの(乙第三二一、第三二二号証、第三二四号証から第三三五号証まで、第三五四号証の一、二、第三五五号証、第三五六号証の一ないし一五、第三五七、第三五八号証の各一ないし三。)
4 自動車に関する著名商標又は自動車に関する品質、普通名称等を第一八類に属する商品を指定商品として商標登録出願したもの(乙第三五九、第三六〇号証の各一、二、第三六一号証、第三六二号証の一、二、第三六三号証、第三六四号証の一ないし四、第三六五号証、第三六六号証の一ないし三、第三六七号証、第三六八号証の一、二、第三六九号証ないし第三七二号証、第三七三号証の一、二、第三七四号証、第三七五号証の一、二、第三七六、第三七七号証、第三七八号証の一ないし三。)
5 他人の著名商標に類似の商標又は普通名称等を第九類に属する商品を指定商品として商標登録出願したもの(乙第三七九号証の一ないし三、第三八〇号証、第三八一号証の一ないし四、第三八二号証の一、二、第三八三号証の一ないし四、第三八四号証。)
6 右に列挙したとおり、原告が自動車に関する品質や普通名称を示す商標及び他人の著名商標類似の商標を第一二類(輸送機械器具等)についてのみならず、第二六類(印刷物等)の商標としても多数登録出願したのは、右のような原告の出願商標が登録されたあかつきには、それを奇貨として、自動車メーカーが頒布するカタログ、パンフレツトその他の印刷物等に関するそれらの使用を妨害し、あるいは原告自らそれらの商標を使用して商品の混同を生じさせようとの不正の意図に基づくものと推認される。また、前掲のような商標を、第一八類(包装用容器等)についても多数登録出願したのは、その出願商標が登録されたあかつきには、それを奇貨として、自動車メーカーが自動車部品ないしは付属品の包装にそれらの商標を使用するのを妨害し、あるいは原告自らそれらの商標を使用して商品の混同を生じさせようとの不正な意図に基づくものと推認される。更に、他人の著名商標に類似の商標又は普通名称等を第九類(産業機械器具等)について多く登録出願をしているという事情も、またほぼ同様のものである。
なお、原告が第二六類「印刷物その他本類に属する商品」を指定商品として出願した、各自動車会社製造の自動車に関する著名商標が、昭和四九年三月二七日公告されるや(乙第三二一、第三二二号証。乙第三二四号証から第三三三号証まで参照)、各自動車メーカーは、これに対して異議申立の手続をとるとともに、社団法人日本自動車工業会においても、特許庁長官に対し、乙第三八五号証記載のような商標法の公正かつ適切な運用を要望する旨の上申書を提出した。また、アメリカン・ドラツグ・コーポレーシヨンは、原告の出願に係る第九類「浄化機械器具、その他本類に属する商品」を指定商品とする「CARKIMCO」の商標が昭和四八年八月二〇日公告されるや(公告番号昭和四八年第四一五三六号―乙第三七九号証の一参照)、乙第三七九号証の二に記載のような理由をもつて異議申立をした。原告による前記のような商標登録出願により、右アメリカン・ドラツグ・コーポレーシヨンが、はなはだしい迷惑を感じていることは、乙第三八〇号証に記載のとおりである。
(五) 以上に述べたとおり「純正」ないし「純正」を含む標章は、古く大正年代より自動車部品ないし付属品につき、自動車メーカーが責任をもつてその品質を保証していることを示すものとして、広く使用されており、訴外鈴木勝雄が本件登録商標の登録出願をした昭和二七年においても既に、ましてや原告が漢字「純正」からなる商標の登録出願をした昭和四五年においてはまぎれもなく、右の意味の普通名称として確立していたものである。しかるに、原告は、自動車部品の製造販売業者たる会社の代表者として、右の事実を熟知しながら、「純正」から成る商標につき登録出願をして、該商標の使用権を専有し且つ該商標及びこれに類似する商標の他人による使用を禁止する権限を取得しようとしたものである。
右事実からして、原告の意図するところが、自動車メーカーが「純正」ないし「純正」を含む標章につき長年にわたり築き上げてきた業務上の信用を自己が代表者たる会社の純正部品でない自動車部品の製造販売につき僣用し、もつてこれにより不正に利益を得るとともに、自動車メーカーによる純正部品ないし付属品に対するその使用を禁圧することにより、自動車部品及び付属品の取引業界を混乱に陥れることにあつたことは明白である。しかも、原告は、右「純正」なる商標の登録出願にとどまらず、前述のとおり、自動車に関する品質、普通名称等を表示する商標、著名商標に類似する商標等について厖大な商標登録出願をしており、商標不正取得の常習者とみるべきものであるから、このような事実からしても、原告の前記「純正」からなる商標の登録出願及びその意図を継続してした本件商標権の取得が、奸悪な意図に基づいてされたものであることは明白である。
原告は、本件商標権を取得するや、前記意図を露骨にして、自己が代表取締役である高木金属株式会社の製造販売する自動車部品について本件登録商標を使用し、且つ「月刊自動車用品の実務」及び「日刊自動車新聞」等に掲載した広告に、前記のとおり、「純正」等の商標を付して出廻つている商品は同社の登録商標の無断使用である旨の警告を附記し、もつて高木金属株式会社に不当の利益を得せしめんとするとともに、自動車部品ないし付属品の取引業界を混乱に陥れようとしている。
原告は更に、国内の自動車メーカー九社及び社団法人日本自動車工業会に対し、「純正」なる表示の使用を止むべき旨の警告をし、あまつさえ訴訟による差止を求めて本訴を提起するに至つたものである。
以上のとおり原告による前記商標登録出願、本件商標権の取得、自己が代表者である会社の製造販売する自動車部品についての本件登録商標の使用、前記のような広告への警告併記、各自動車メーカーに対してした標章使用の禁止を求める前記警告及び本訴の提起が、前述のとおり奸悪なる意図に基づいて不正になされたものである以上、原告の本訴における本件商標権の行使は権利の濫用というほかなく、原告の本訴請求はその点において失当である。なお、本件と類似する事案につき、商標権に基づく差止請求権の行使を権利濫用としたものとして、東京高等裁判所昭和三〇年六月二八日判決(高等裁判所民事判例集八巻五号三七一頁。いわゆる「天の川事件」)があるが、同判決の事案に比較して、本件は、原告による商標権取得前、単に一業者による標章の使用が周知であつたというにとどまらず、国内の自動車業界全体に広く使用されていた標章に係るものであるという使用の範囲の広さの点からみても、また使用されてきた期間の長さの点からみても、これを僣用しようとする原告の意図の不正さの程度は、はるかに大きいものといわなければならず、しかもまた、自動車部品の品質を示す「純正」の表示が不正に使用されるときは、自動車運行の安全を損ない、人命の危険につながるという重大な社会問題ともなるものであるから、原告の本件商標権の行使は、前記事案の場合より、一層強い理由で権利の濫用と断じられなければならないのである。
六 被告が使用する「純正」の標章は、商標法第二六条第一項第二号に該当するものであるから、本件商標権の効力は、右被告使用の標章には及ばない。
本件商標は、漢字「純正」を縦書にし、その下部にローマ字「JYUNSEI」を横書にしてなるものであるが、このうち、原告は漢字「純正」を含む標章の使用が本件商標権を侵害するものであるとすること前述のとおりである。しかしながら、「純正」という文字は、「純粋で正しいこと」を意味することばであり(乙第三三六号証)、それのみでは何ら商品の出所を表示することができないものである。しかのみならず、それが自動車の部品及び付属品に使用されるときは、自動車の完成品の製造、販売業者が責任をもつてその品質を保証している自動車の部品及び付属品を指称する普通名称と化していることも既に詳述したところである。
被告は、「純正」を含む標章を、自動車メーカーたるダイハツ工業株式会社及び被告会社が責任をもつてその品質を保証する自動車の部品及び付属品であることを示す普通名称として、普通に用いられる方法で表示しているにすぎないから、商標法第二六条第一項第二号により、原告の商標権の効力は、右標章には及ばない。
原告の本訴請求は、この点においても失当である。
第四被告の主張に対する原告の反論
一 被告は、原告が本件商標権を取得したことをもつて、権利濫用であると主張するようであるが、本来、権利を有するものが権利を誰に譲渡するかは全く本人の自由意思であり、また、他人から権利を取得するのにも何ら制限はない。適法に権利を取得し、その権利行使をすることは何ら違法ではない。
特定の標章を使用し、又は使用しようとする第三者が、同じ指定商品について商標権を有する権利者の存在を知つたときに、第三者として打つべき手としては、決して、大々的に登録商標(ないし類似の標章)を使用して宣伝をし、数をたのんで商標権を圧潰させてしまうことではない。打つべき手としては、法的に無効審判ないし取消審判を請求するのも一つの手であろうし、また権利者と折衝して権利の譲受けあるいは使用権の許諾を得ることもその一つの手段である。
権利者としても、このような適法な手段がとられることなく、大々的に登録商標(ないし類似の標章)が使用され、その宣伝によつて登録商標が稀釈化ないし普通名称化されようとするならば、これに対抗するためには法的手段をとらざるを得ないのも当然である。量をたのむキヤンペーンによつて既定事実を作り上げておいて、権利行使を有名無実にしてしまうとすることに対しては、強く反対せざるを得ない。被告の提示する乙号各証は、被告自らこのような試みを行つていることを示すものである。
もし、原告にとつて不幸なことであるが、被告の提示するキヤンペーンの手段によつて、原告の権利行使が否定されることになつたら、原告は権利の上に眠る者ということになるであろう。しかも、被告の提示する乙号各証はその大部分が本件登録商標の登録の時点ないし出願の時点より後に印刷されたものである。権利の存在を熟知しながら、これを否定しようとしているのである。
本来、わが商標法の制度は、登録主義をとつている。しかし、登録ないし出願の時点において、周知となつている標章がすでに存在するならば、その登録は拒絶されることになつている。従つて、本件登録商標も右に該当するならば、出願審査の段階で既に拒絶されていたであろうし、仮に間違つて登録されても、無効審判によつて権利がつぶされていたであろう。
このような関門をくぐり抜けて来た本件登録商標による権利行使についてとやかく申し述べることは、筋違いといわなければなるまい。
二 被告は、被告の標章使用行為が「普通名称として、普通に用いられる方法で表示している。」と主張する。
しかし、被告の主張によつても、使用開始の当初から普通名称であつたというのではなく、「普通名称と化している」というのである。原告も被告が普通名称化の努力を重ねていることについてまで争うつもりはないが、原告は本件登録商標が普通名称と化しては困るので、止むなく本訴により権利行使をしているのである。
もし、裁判所の認定が不幸にして、すでに普通名称と化しているということであれば、内容空虚な権利を抱いている自らの不明を慨嘆するほかはない。
本来、自動車メーカーないしその関連会社がその責任をもつてその品質を保証する自動車の部品及び付属品であることを示す言葉は、必ずしも本件登録商標でなければならないものではない。英語で言えば「genuine」がこれに該当するが、これに対応する日本語は、「真実の」、「偽りのない」、「純種の」、「本物の」、「純真な」又は「真正な」という表現である。「純正」という表現は直ちに見出し得る表現ではない。「純正」という言葉は、「純粋で正しいこと」の意味を有することは被告主張のとおりであろう。それのみでは、社標とは異なり、商品の出所を直接表示するものではないけれども出所表示の機能を有しないとはいえない。
英語の「genuine」に対する日本語に、いくつもの表現があつてもいずれも形容詞ないし名詞である。特定の形容詞ないし名詞を選択してこれを特定の標章として商標登録出願をすることは、世上きわめて普通に行われていることであり何ら異とすることはない。
登録後ないし出願後の資料をどれほど積み上げても本件登録商標に対して、その権利行使を否定する材料にはならない。かえつて、自ら普通名称化の努力を重ねていることを示すのみである。
第五証拠関係<省略>
理由
一 原告が本件商標権の商標権者であることは当事者間に争いがない。
二 原告が、被告はその販売する商品のうち自動車の部品及び付属品について別紙目録(一)ないし(五)記載の各標章(被告標章)を使用していると主張するのに対し、被告は、右はいずれも標章ではなく、被告標章(一)及び(二)は被告の商品の包装又は商品に貼付するラベル、被告標章(三)は被告の商品の包装用ビニール袋、被告標章(四)は被告の商品の包装用紙箱、被告標章(五)は被告の商品ラバーマットの包装用紙箱であると主張する。
標章とは、文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合をいうものであり(商標法第二条第一項)、別紙目録(一)ないし(五)は、文字及び図形又は文字、図形及び記号の結合からなることが明らかであるから、これがそのまま商標といい得るかどうかは別として、標章であることは明瞭である。被告が主張するように、これらに商品名、品番、受入検査月等が記入されるものであるかどうかは、被告標章が標章であるとすることとは関係がない。被告の主張は理由がない。
三 原告は、被告は自動車関係の雑誌の自動車の部品及び付属品に関する広告に「純正」の標章を使用していると主張するが、これを認めるに足る証拠はない。
成立について争いがない乙第一〇四号証ないし第一〇六号証、第一〇八号証ないし第一一二号証、第二〇八号証ないし第二二四号証によれば、ダイハツ工業株式会社が、同社発行の「ダイハツ・パーツリスト」誌及び朝日新聞その他の日刊紙掲載の同社製造の自動車の部品及び付属品に関する広告に「純正」の文字を付したことが認められるけれども、ダイハツ工業株式会社と被告とは別会社であると解されるから、ダイハツ工業株式会社が右広告をしたからといって、被告が右広告をしたことにはならないし、また被告が将来右のような広告をするおそれがあるということもできない。その他被告が原告主張のような広告に「純正」の標章を使用するおそれがあることを認めるに足りる証拠もない。
そうすると、原告の本訴請求のうち、「純正」の標章を自動車の部品又は付属品に関する広告に使用することの差止及び右使用を原因とする損害賠償の請求は、その余の点について判断することもなく、理由がない。
四 成立について争いがない乙第一二、第一三号証、第一五号証ないし第一一三号証、第一一四号証の一、二、第一一五号証ないし第一二九号証、第一三二、第一三七、第一四二、第一四七、第一四九、第一五〇号証、第一五六号証ないし第一六〇号証、第一六二、第一六三、第一六五号証、第一六九号証ないし第一七六号証、第一七八号証ないし第一八三号証、第一八五号証ないし第一九〇号証、第一九二、第一九四号証、第一九七号証ないし第二七四号証、第二七五号証の一ないし三、第二七六号証の一、二、第三三七号証ないし第三四七号証、第三四九号証ないし第三五一号証、被告主張のとおりのものであることについて争いがない検乙第六号証ないし、一六号証を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 大正一五年三月一日の報知新聞に、日本フオード自動車株式会社が、「純正フオード部分品特約販売店のみより御購求を乞ふ」との見出しで、フオード自動車の所有者は日本フオード自動車株式会社の特約販売店からのみフオード部分品を購入すべきこと、特約販売店は「純正フオード部分品」のみを取扱つていること、フオード部分品を売る店は多くあるが、多くの場合模造品又は模造品と「純正品」の混合のものを提供していること、模造品は劣等の材料で作られていること、そこでフオード所有者は必ず「純正フオード部分品」を購入すべきであることを広告した。
(二) 昭和一一年八月一日発行の「一九三六年紙上モーター展」には、輸入元奥村商店が「ゼネラルモータース株式会社純正部分品卸売特約店」として「デルコレミー純正パーツ」その他の広告をした。
(三) 昭和一四年七月一日以降流線型社発行、昭和二七年一月一日以降自動車週報社発行の月刊誌「流線型」(昭和二七年一二月一日発行のものまで)、昭和二二年二月一七日以降現在まで株式会社自動車新聞社発行の週刊紙「自動車新聞」(発行部数―当初一、五〇〇部、現在一八、〇〇〇部)、昭和二五年一月一日以降社団法人自動車技術会発行の「自動車技術」(昭和二八年一〇月一日発行のものまで)、第五回ないし第八回の「自動車部品展出品目録」、昭和二六年九月三〇日株式会社自動車新聞社発行の「優良自動車重整備事業者工場大鑑」、昭和二七年六月八日日本自動車部品組合連合会発行の「会員名簿」、昭和二六年三月一日以降株式会社三栄書房発行の月刊誌「モーターフアン」(昭和四七年一二月一日発行のものまで)、昭和三六年四月一日以降株式会社鉄道日本社発行の月刊誌「自動車工学」(昭和四七年一一月一日発行のものまで)に、トヨタ自動車工業株式会社、日産自動車株式会社、東洋工業株式会社、いすゞ自動車株式会社、ダイハツ工業株式会社、オオタ自動車工業株式会社、日野ヂーゼル工業株式会社、三菱ふそう自動車株式会社、三菱日本重工業株式会社、新三菱重工業株式会社、本田技研工業株式会社、民生デイゼル工業株式会社、ヤマハ発動機株式会社、日本内燃機製造株式会社、富士重工業株式会社、鈴木自動車工業株式会社など自動車メーカー及びその販売会社などが、自動車メーカーの製造又はその管理の下に製造された自動車部品、付属品について、「純正」、「純正部品」、「純正部分品」、「純正パーツ」、「純正指定品」、「純正品」、「純正規格」、「各社純正部品用品」、「純正オイル」、「我国自動車メーカー各社の純正部品」、「いすゞ純正オイル」、「いすゞ純正部品」、「三菱自動車純正部品」、「日産純正」、「三菱・日産・日産プリンス・日野・ダイハツ・ホンダ純正」、「フオード純正部品」、「信頼できる純正部品」、「トヨタ純正」、「トヨタ純正部品」、「トヨタ自動車純正用品」、「各社純正」、「ダイハツ純正部品」、「三菱純正」、「トヨタ全車種純正部品」、「ふそう純正部品」、「日野純正」、「安全を保証するトヨタ純正部品」などの文字をもつて広告、宣伝してきた。
(四) 昭和二四年一〇月一日発行の月刊誌「流線型」には、「特集・純正部分品時代」と題する特集が組まれ、「部分品界の見透し」、「純正部品の検査」、「純正パーツと模造パーツ」と題する各記事の中で、「純正品」、「純正部品」、「純正パーツ」又は「ゼニユイン・パーツ」の言葉が「模造品」、「模造パーツ」又は「イミテーション」の言葉に対して用いられ、両部品の化学成分、引張強度などの相違、純正部品の検査のことなどについて記述されている。
昭和二七年四月一日発行の「流線型」には、トヨタ自工技術部物理試験課作成名義の「純正部品とイミテーション」と題する記事が掲載され、その中で、自動車メーカーが自社製の車の性能を最大限に発揮させるため、素材と製品に各種の試験を実施してその信頼性を確認し、また材質及び設計の改善に専念するための大規模な研究機関を組織し、その成果としてでき上つた各部品が工場から積み出されるまでには厳重な精密検査が行われるから、「純正部品」は安心して使用できること、「純正部品」とイミテーシヨンとについて各種の検査をしてみると、材料、強度などにおいてイミテーシヨンの方が粗悪品であることが判ることなどが記述されている。
昭和二七年七月一日発行の「流線型」には、「80%が純正品を使用中トヨタの補修部品使用調査で判明」と題する記事が掲載され、その中で、「純正品」又は「純正パーツ」と「イミテーション」又は「模倣品」との使用比率「純正品」が使用される理由、両者の価格の相違、両者の耐久性の比較、結論として「純正品」を使用する方が得策であることなどが記述されている。
(五) 昭和三一年四月二〇日発行の「自動車ガイドブツク」には、「純正部品製造、販売会社名簿」として、昭和三二年五月九日発行の「自動車ガイドブツク」には、「純正部品製造・販売会社」として前記の自動車メーカー及び販売会社などの商号が記載されている。
(六) トヨタ自動車販売株式会社作成の昭和三二年版及び昭和三六年版の「純正部品の製造」、昭和三三年一〇月一五日発行の「補給部品の市場」には、純正部品の検査規格、純正部品の検査方式、純正部品の条件などが記載され、右記載中、「純正部品」の定義として、「自動車メーカーはそれぞれ自己の製造した自動車の補給部品として純正部品を製造販売しています。純正部品である以上、トヨタ純正部品も日産純正部品もその他の自動車メーカーの純正部品もすべて主要な点で一致しているが、それでも各メーカーの組織により異る点がありますので、ここではトヨタ純正部品について説明します。………純正部品とは、トヨタ自動車工業株式会社(以上自工といいます。)の設計による図面もしくは承認図面に基いて製作され、自工又は自工の委任した検査に合格したもので、トヨタ自動車販売株式会社(以下自販といいます。)を通じて出荷されるものを云う。」と記述されている。
(七) 昭和四〇年一〇月一日発行の「自動車工学」には、「オイル・フイルタとオイルの上手な使い方純正品と社外品の性能比較など」と題する記事が掲載され、その中でオイル・フイルタの「純正品」と社外品の性能、使用材料などの比較が述べられている。
(八) 昭和四三年一一月一日発行の「実用百科マイカー」、昭和四四年一一月一〇日発行の「フアミリーカーI総合百科」、「フアミリーカーII総合百科」には、保証証券にはその自動車のメーカーの責任によつてその自動車を構成する「純正部品」に欠陥が生じたときには無料で交換修理を受けられるということがうたつてある旨の記述がある。
(九) 日本自動車工業会は、昭和四七年二月以降週刊朝日、サンデー毎日、週刊サンケイ、週刊読売、週刊新潮、週刊文春、週刊現代、週刊ポスト、平凡パンチ及びプレイボーイ誌上で、「純正部品」を使用するようにとの広告をしたが、その広告には、車の横に白抜きの「純正部品」の文字を配した車に手を振つて読者に呼びかけている人が乗つているイラストのほか、「車の部品にも純正部品とそうでないものがあります。新車についている部品と同一の物が<純正>で、車の維持に最適の部品、拒絶反応のまつたくない部品のこと。」「正しい修理の第一章、それは部品交換に当つて、いつでもお車にマツチする純正部品をご指名なさることです。」、「自動車のメーカーがつくる部品、生まれながらの車についている部品、それを純正部品と呼びます。お車の修理・故障のとき、ひとこと<純正部品>とご指名ください。」、「純正部品とは、自動車メーカーが作つている部品、生まれながらの車についている部品のことです。メーカーの品質管理が徹底しているので安心です。お車を整備や修理に出すときは、はっきり<純正>とご指名ください。」、「気分がいいから……純正部品」、「新車のときから……純正部品」、「キカイに弱いから純正部品」、「車が要求する純正部品……」、「修理、整備、車検のときの合言葉部品は“じゅんせい”」、「愛しているから……純正部品」、「長く乗りたいから……純正部品」、「妻子がいるから……純正部品」、「氏も育ちも一流です。車の部品には自動車メーカーが品質を保証している純正部品とそうでないものがあります。修理や整備にだすときは、ひとこと(じゅんせい)とおつしやつてください。いつ、どこを運転していても安心です。のちのち後悔しないためにもぜひ……」などと記載されている。
(一〇) 昭和三〇年一〇月、横の連絡をとりながら「純正部品」を広く普及するという共同目的の下に、自動車メーカー系列のカーデイーラーによつて「純正部品懇話会」が設立され、昭和三三年一月一〇日創刊以降「純正ニユース」を発行して、純正部品を、自動車メーカーが責任をもつてその品質を保証している自動車の部品ないし付属品を意味するものとして宣伝広告し、その普及を図り、その後昭和三八年一〇月には全国的組織としての「純正部品懇話会連合会」が発足、その会員数は、昭和四八年四月現存六八五社に及び、PR事業として昭和四〇年一〇月第一回PR用ポスター二万枚を発行、昭和四一年五月円形中央部に「GP」、その周囲に「純正部品で安全運転」、「GENUINE PARTS」と記載された第一回PR用ステツカー三万二、一五〇枚発行、昭和四二年六月「運転を無事故につなぐ純正部品」との記載がある第二回PR用ポスター二万五、二一〇枚を発行、昭和四三年九月円形中央部に「GP」、その周囲に「事故をなくしましよう!使つて安心純正部品」との記載がある第二回PR用ステツカー三万九、八六〇枚を発行、昭和四四年一〇月「純正部品は“安全”のシンボル」、「運転を無事故につなぐ純正部品」などの記載がある第一回PR用マツチ二七万箱を製作、昭和四五年一〇月「純正部品は安全のシンボル」の記載のある第一回PR用灰皿を一万二、九五〇個製作、昭和四六年九月箱に「運転を無事故につなぐ純正部品」、「心にゆとり車に純正部品」との記載のある第一回PR用タバコ七万箱を製作、昭和四八年三月「純正部品で社会に貢献しよう」、「安全と安心を、売ります買います純正部品」の記載のある第一回取引改善用チラシ一五万枚発行、昭和四八年四月「彼女も<純正部品>を求めています」の記載のある第三回PR用ポスターを三万枚発行した。
(一一) 商標登録願昭和四五―二八二九号、昭四七―一二八八六八号及び昭四七―一二八八六九号の各拒絶理由通知書には、「純正」が、部品においては完成品メーカー又はその関連会社が直接製造し品質を保証している部品を、完成品においては純正部品によつて構成されているものを表示するもので、需要者が何人の業務に係る商品であるかを認識することができないものである旨記述されている。
(一二) 昭和四六年六月二〇日株式会社オート・トレード・ジヤーナル発行の「日本の自動車部品工業」には、通商産業省重工業局自動車課作成名義の「ポスト自由化と部品政策」と題する著述及び「流通近代化の方策と問題点」と題する座談会記事が掲載されており、その中で、「純正部品」は自動車メーカー又は自動車販売会社から自動車デイラーを通して補修用として売られる部品で、部品メーカーから専門の卸商、小売商を通じて販売される補修部品と区別されており、また純正部品はメーカーの責任によつて市場に出されるものであるから、ユーザーが安心して使えるものであると述べられている。
(一三) 一九一九年五月一日発行の「フオードサービス公報」には、フオード車が修理を必要とするときは、必ず「GENUINE Ford parts」を求めるようにと記述されており、また一九六四年発行のフオード・モーター・カンパニーの「ウオロンテイ及びポリシイマニアル」には、「genuine Ford Motor Company parts」の言葉が「non-genuine parts」の言葉と対置して用いられている。更に、フオード・モーター・カンパニーの宣伝ポスターには、「genuine Ford Service Parts」を使用するようにと記述されている。
以上のとおり認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、「純正」、「純正部品」、「純正部分品」、「純正パーツ」、「ゼニユイン・パーツ」、「genuine」、「genuine parts」等の文字は、それが商標であるとしても、自動車メーカー及び自動車販売会社など自動車関連業者間において、特定の自動車メーカー又はその関連部品メーカーが製造し、当該自動車メーカーが責任をもつてその品質を保証している、当該自動車メーカー製造の自動車の部品又は付属品について慣用されている商標であると認められる。
ところで、本件登録商標は、別添商標公報記載のとおり、上部に縦書きの漢字「純正」の文字、下部に左横書きのローマ字「JYUNSEI」の文字が配された構成であり、本件商標権の指定商品が旧第二〇類自転車その他旧第二〇類に属する商品であることは当事者間に争いがないところ、自動車の部品及び付属品は右旧第二〇類に属することが明らかであるから、原告の有する商標権の効力は被告標章中「純正」、「純正部品」、「GENUINE PARTS」、「Genuine Parts」とある部分には及ばない(商標法第二六条第一項第三号)。
原告は、被告標章につき、その全体としてその使用の差止を求めているが、被告標章のうち、前記記載の標章部分以外に本件商標と類似しているものとして対比できる部分がないことは明らかであり、前記記載の部分に原告の商標権の効力が及ばないこと右説明のとおりである以上、被告標章全体に本件商標権の効力が及ばないことは明瞭である。
被告は、本件商標権の効力が被告標章に及ばない理由として、被告標章中の「純正」、「純正部品」、「Genuine Parts」、「GENUINE PARTS」等は自動車の部品又は付属品の普通名称であるからであると主張する。しかしながら、被告標章中の前記標章部分は、商標法第二六条第一項第三号所定の慣用商標と解すべきこと前説明のとおりであり、被告の主張は、その事実主張を前提とする適用法条(商標法第三条第一項第二号)の主張に止まると解すべきであるから、当裁判所が被告の主張にかかわらずこれを慣用商標と認定することの妨げとなるものではない。
そうすると、原告の本訴請求のうち、自動車の部品又は付属品につき別紙目録(一)ないし(五)記載の各標章を付したラベル、包装袋及び包装箱の使用の差止、並びに、右使用を原因とする損害賠償の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
五 以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 高林克巳 牧野利秋 清永利亮)
別紙
被告使用の標章
(一)
使用態様 ラベル
(二)
使用態様 ラベル
(三)
使用態様 ビニール袋
(四)
使用態様 包装箱
(五)
使用態様 色装箱
商標出願公告 昭27―11827
公告 昭27.9.16 出願 昭27.4.24
商願 昭27―9669
指定商品 20
自転車其他本類に属する商品
出願人 鈴木勝雄 静岡縣駿東郡原町大塚523
代理人弁理士 藤江穂